唯一無二の淡青と銀彩で魅せる 新たな九谷焼 <中田一於氏>

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さかのぼること、約一年半前。「青」をテーマに生まれた、ひとつのコラボレーションがあった。それはOCEANUSと“やきもの”である九谷焼。そもそも九谷焼とは、石川県南部(金沢市、小松市、加賀市、能美市)で作られる、日本が誇る伝統工芸品のひとつ。“呉須”と呼ばれる藍青色で線描きし、“五彩”という5色(赤・黄・緑・紫・紺青)の絵の具を厚く盛り上げて塗る彩法で、山水や花鳥など絵画的で力強い絵柄が特徴的な磁器である。では、そんな色彩豊かで絵画的な絵柄の磁器と、OCEANUSのどこに共通点があるというのか。その疑問は、ある一人の作家の作品を見たときに解消された。その方は、現代の九谷焼を代表する作家、中田一於氏。2011年に紫綬褒章を受賞し、さらに高みを目指す名匠である。一見、九谷焼ではないのでは、と思うほどシンプルな印象を持つ中田氏の作品は、いわゆる九谷焼とは一線を画し、なんとも儚い青色をベースに銀箔によって施された模様が特徴で、その品格と美しさは多くの人を魅了している。まさに青と銀の生み出した奇跡である。そして今回我々は、そんな奇跡を確認すべく、石川県小松市にある中田氏の陶房「錦苑窯」を訪ねた。

美しい淡青が目をひく丸皿。

職人ではなく、作家としての作品を作るということ

江戸時代に誕生以来、地域産業として発展してきた九谷焼。色絵を生業とする名窯に生まれ育った中田氏もまた、家業として九谷焼を始めることとなる。当時について中田氏はこう語る。
「私がまだ24歳の頃でしたかね、当時は産業ベースのクラフトの仕事が盛んな時期でした。何人かの若手の作家が集まり、買いやすい値段の作品を作っていくというものですね。そんな時、展覧会に自分の作品を出展してみたいと思い始め挑戦したのですが、中々上手いこといかず、幾度か落選が続いたんです。悩み途方にくれていた時、師匠がそっと伝えてくれたことがありました。それは他の人とは違う物作りをするということ。オリジナリティを大切にし、皆様が認めてくれるいい物を作るということでした」。
師匠である重要無形文化財保持者・三代目徳田八十吉氏からの言葉で、中田氏はあることを考え出す。
「そこで自分には何が出来るかと考えてみた時に、私の親戚がすでにやっていた技法、釉裏金彩にヒントを得て、金彩があるなら、銀彩があってもよいのではないかと。そこから挑戦が始まり、釉裏銀彩(ユウリギンサイ)を確立するに至ったのです」。
銀箔に細工を施し陶磁器の上に張り合わせ、透明度の高い釉薬を塗り焼きあげるこの技法。それまで、酸化で変色してしまう銀をこのような形で九谷焼に使う人はいなかったという。その弱点を逆手にとって、見事なまでの個性として創り上げたのだ。

細工を施した銀箔を張った焼き付け前の小皿。

窯の中で焼き付けられた後の壺

そのこだわりの青を極めるために

そして中田氏のもう一つの特徴である“淡青”と呼ばれる、この色味。言葉で言い表そうとしても適当な表現が見つからないその青は、水でもなく空でもない、強いて言うならば“宇宙”を想像させる。決して青のイメージが宇宙にあるわけではないのだが。その奥行を感じさせる色の深さが、静寂という音まで聞こえさせてくれる。
「何とも言えない美しさを持つ淡青という色を極めるために、7,8年の間はひたすら青い作品を作り続けました」。
この青に辿り着くまでに、どれだけの試行錯誤を重ねたことだろうか。極めるということは、けして時間や経験だけではないのだ。

中田氏の代表作「墨地紫苑釉裏銀彩四方鉢」。

ではそんな青の達人に、OCEANUSの青をどう映ったのだろうか。
「まず時計自体の見た目が持つ重厚感と、実際に手に取ったときのギャップに驚きます。そしてOCEANUSが持つ青もまた、素晴らしく美しいですね。私が作り出す青とは一味違った深みがあります」。

“KOGEI”という言葉に込めた、物作りへの誇り

最後に、昨今世界的にも注目を集めている“Made in Japan”や“Japan Quality”という日本の物作りに対し、中田氏はどのような捉え方をしているのか尋ねてみた。
「我々からすると、日本の職人が作る物は質が良いのは当たり前なんです。ですから、その先を考えることが、私達のするべき仕事なのかなと感じています。九谷焼という伝統工芸をどう世界中に広めていくか。クラフトとしての工芸ではなく、伝統工芸としての九谷焼を認知してもらうということ。市場が世界に広がることで、未来は広がりますからね。ですから、ルーブル美術館に出展される時もCRAFTではなく、“KOGEI”として展示されています」。

石川県指定無形文化財でもある、中田一於氏。

伝統的に守られてきた、九谷焼の豪華絢爛な印象を見事なまでに打ち破った中田氏の作品。どんな世界でも、新たな領域に足を踏み込むためには、革新的な技術と挑戦が必要なのだ。そこを打ち破る信念と勇気を持つ者だけに、未来の扉は開くのであろう。まさにそれこそが、OCEANUSと中田氏の“青”で繋がる共通点であった。

中田氏によるOCEANUS「OCW-G1100」をイメージして作られた作品。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Masashi Nagao

錦苑窯

石川県指定無形文化財であり、日本を代表する九谷焼陶芸家の中田一於氏が運営する陶房。中田氏とご子息である中田博士氏の作品を観覧することができるギャラリーを併設している。

石川県小松市高堂町ロ-158

電話:0761-22-5628

 

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